たった一言で嬉しくおもえる。
たった一言で悲しくなる。
たった一言を言うのに苦心するときもあれば、たった一言心をあたたかくするときもある。
だから。
この大事なたった一言を。
どうしても、伝えたかった。
「んぅ・・・・」
心地よいまどろみから少しずつ、意識が浮上してくる。
なにか、物足りなくて寝返りをうてば、あたたかな体温がそこにある。
「」
この声がとても、好き。
「平助・・・くん」
まだ落っこちそうになる目蓋を持ち上げる。
思ったより近くにある平助くんの顔にびっくりすると、彼は屈託なくわらった。
「、誕生日おめでとう」
かみ締めるようにゆっくりと告げられた言葉に思わず目をぱちくりとさせた。
二人で暮らすようになって、幾つもの朝を迎えた。
が先に起きるときもあれば藤堂が先におきるときもある。
どちらがおきても自然に挨拶してふたり、笑いあうのがいつもの日課。
「え・・・」
突然、告げられた言葉にの寝起きの頭はついていかない。
しばし、ことんと首をかしげていた彼女だったがやっと思い出したように瞬きをした。
「そっか・・・・」
今日は。
の生まれた日だ。
「ありがと、平助くん」
「オレも嬉しい」
「え、何で?」
そう問えば、はにかみながらもの頬に手をのばす藤堂。
そのまま、輪郭を辿るようにそっと指を撫でる。
それを合図にはゆっくりとまた、瞳をとじた。
合わさる唇。
軽く、触れて、それは離れてゆく。
「今年もの誕生日におめでとうと言えたからさ」
「・・・そうなの?」
「お前がオレを祝ってくれた日から、決めてたんだ」
そう、決めていたことがある。
おもえば、藤堂が誕生日を祝ってもらえる日はほとんどなかったようなものだった。
出自からして、望まれた子供ではなかった自分。
親の顔さえまともに覚えられず、覚えさせてももらえなかった。
だから、嬉しかった。
あのとき、初めてに祝ってもらえたことが。
そのとき、決めた。
祝われることがこんなにも嬉しいのならも同じくらいに幸せになってもらいたい。
いつまでも、が笑っていてほしいから。
自分がそばにいる限り、ずっとずっと。
を祝おうと藤堂は決めたのだ。
「私も・・・平助くんに祝ってもらえて嬉しいよ」
「ホントか?・・・すげえ、嬉しい」
「なぁ、。生まれてきてくれて有り難う」
自分と出会ってくれて。
好きになってくれて。
ともに生きてくれて。
「ほんとうに有り難う」
「あのね、平助くんに祝ってもらえたことが私にとって凄く、きらきらした贈り物だよ?」
だからね、とは続ける。
「これからも私の誕生日を祝ってって我侭聞いてくれる?」
いつか、離れ離れになるかもしれない。
そんな思いも確かにある。
でも。
ずっとそばにい続けるという約束をくれた彼に。
また、ひとつ願う我侭。
「あぁ・・・約束するよ」
私たちは互いに必要不可欠な存在だからーーーーーーーーーー
この世に生をうけたことが何より、奇跡。
だからね。
その奇跡をいつまでも大事にしたいね。
生まれてきてくれて有り難う。
誰よりも伝えたいのは貴方です。
いつもと変わらない朝のこと。
それでも、とても、かけがえの無い朝のこと。
精一杯の気持ちがこめられた一言が贈られる。
to be continued.......