全てが愛しい人だから

穏やかな朝日が降り注ぐ。
まだ、肌寒い早春の朝、は生まれたばかりの光に目を開けた。
完全に覚醒しきっていない頭でぼんやりともう、そろそろ起きる時間だと考える。
けれど、となりにあるぬくもりが心地よくてもぞもぞと身体を反転させると・・・・・・。

「・・・・っっ!!は、一・・・・・・さん」

思ったよりも近くにあった齋藤の寝顔に思わず、大きな声をあげそうになってしまった。
彼がしっかりとを抱きしめていたため、互いの鼻がくっつきそうになるほど至近距離になってしまったのだ。

「・・・ずっと、抱きしめてくれていたんですね」

ふわふわと浮かんでくるくすぐったいようなーーー愛しいようなーーー柔らかなきもち。
齋藤のこの何気ないかもしれない行動にさえ、喜んでしまう自分が少し恥ずかしい。


その恥ずかしさを押し隠すようには齋藤の頬に手を伸ばした。
穏やかな彼の寝顔に心を許してくれているといわれているような気がする。
さらり、という音がしそうな髪に今は伏せられている閉じられたまぶた。
今は見えない果てしない海をうつすような蒼い瞳はときに雄弁に齋藤の気持ちをかたってくれる。
普段の生活のなかでも様々なところで。
彼の様々な愛しい顔が浮かんでくる。
・ ・・しかし、情事のときの齋藤の情欲に濡れた視線を思い出してしまいはさらに顔が赤くなった。
いけない、いけないとは首を振る。

「ご飯を作りに行きますね、一さん」

ともすれば、ほてりだしそうな身体に気づかぬ振りをしては起きだそうとする。
強く自分を掻き抱いている齋藤の腕を四苦八苦して退けながら。
が、は自分の思考に没頭していて気づかなかったのだ。
齋藤が昨夜、意図的にに服を着せなかったことを。

そんなことに気づくわけもなく、はいそいそと布団を出る。
当然のごとく、肌寒い。
(うぅ・・・・・・、今日は凄く寒い・・・・・・)
そう、おもいながら顔をあげると視界の端に映る白いもの。

「・・・。・・・・・・?」

ふすまの片隅に申し訳なさげにうずくまる白い布。
何ゆえか見覚えのある刺繍。

(昨日、私が着ていたのに似ている?)

はっと自分の身体に目をやれば何も着ておらず、ついでのように体のいたるところに咲く赤い華。

「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!は、はじめさん?!?!?!」

慌てて、夜着を拾いにいくとがさりと後ろで何かが動く気配がする。
後ろをおそるおそる見やれば、ばっちり起きたらしい齋藤と視線があってしまった。
さらに酷いことに齋藤はの裸体を上から下までゆっくりと眺めまわすと、

「朝からいいものをみせてもらった」

と、一言。

そして、顔を赤らめるとぼそりと呟く。

「昨日、閨に浮かび上がるもよかったが朝日を浴びる姿もまた・・・・・・」
「〜〜〜〜っっっ?!?!一さんっっっ!!!!」



何はともあれ、すべてを愛している




( お前に関しては・・・な)





齋藤は朝の食卓につきながら、何度目かも分からない妻の名を呼ぶ。
「なんですか」
対するの声は幾分かたい。齋藤に言わせればつれない声音である。
「何ゆえ、今日の味噌汁に俺の好きな豆腐をいれてくれなかったのだ・・・・・・」
「何ででしょうね」
「何ゆえ、今日の具が納豆なのだ・・・・・・」
「一さんのお心にきけばわかりますから!!」
「俺は別に悪いことはしていないが」
「今度から、一さんにお豆腐かって来ませんから!!!!」


・ ・・その後、しばらく齋藤は頭を悩ますことになる。


 
                                                END.