夜の不気味な森の静けさのなかで獣の慟哭のような荒い息が響いていた。

 男は必死に歯を食いしばっていたが漏れ聞こえるのはまぎれなく、痛みをこらえる吐息。

 そのような状態でも腕に抱くものへの力は緩める気配が無い。

 ぐったりと木の幹に預けたからだをつつむ服は変色した血がこびり付き、ずたずたに破れている。

 虚空を映す焦点の合わない瞳が視線を彷徨わせた。・・・まるで、大切な玩具をこわしてしまった子供のように。



 彼の名は沖田総司。
 新選組随一と謳われし剣豪、その人であった。










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 時は、新選組と新政府の戦いがさらに激化しているころ。

 松本医師に紹介された隠れ家に身を潜めていた沖田と
 土方が宇都宮に向かっていることを知る。

 彼に会うために江戸の町をでた二人。

 しかし、その先で会ったのは、土方ではなく風間千景だった。


 沖田はずっと拒んできた。
 血を飲むことを。

 彼の身を蝕む羅刹の毒はそれを仇とする。

 
 羅刹となってから血を飲むことのなかったためとうとう、血に狂ってしまった沖田とそれを庇おうとしたを風間はためらい無く切り伏せた。



 しかし、沖田は奇跡的に生きていた。
 流れ出る純潔の鬼、つまりの血によってなんとか歩けるだけの気力を取り戻すことができた。


 のまだ仄かに温かい身体を抱きしめると沖田は行くあてもなく歩き出したーーーーーーー。






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 「ねぇ、僕がこんな身体じゃなければ、君を守れた?」
 やっと、たどりついた森のなか、沖田は呟いてしまう。
 
 「僕と君が出会わなければ、こんなことにはならなかった?」

 他に考えるべきことは山ほどあるはずなのにもう、考えたくも無い。
 
 血塗れた手で不器用にの髪をすく。
 
「まったく、皮肉だね」
 初めて食んだ血がこれだなんて。
 君とは、本当にとんだ巡り会わせの連続だった。

 に隠してきた吸血衝動。
 目の、前で笑うの血を心行くまで愉しみたいという思いから必死で目を背けてきたのに。

 結末は最悪のものだった。

「僕のそばに居てくれるって言ったのは嘘?」

 自分が悪いとわかっているのにそれでも恨み言のような言葉が零れ出る。

 決して、動かない彼女に唇を押し付けた。
 柔らかく、啄ばめば応えてくれた筈なのに。
 すっかり冷えてしまった唇は、もうあのときとは別のもののよう。

 ーーー君と遊ぶのがたのしかったのにもう、遊んでくれないんだね。

「壊れた玩具じゃ、嫌なんだよ。ちゃん」

 ねぇ、君は寂しくないの?
 僕と遊んでほしいでしょ。
 
 お願いだから、そう言って。
 
 応えてくれたらーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「君を」

 逃がさない。逃がせない。

 もう、離せないところまで来てしまった。
 
 どんなに世界が変わったとしても。
 
 君を必ず、僕の腕に閉じ込めてあげる。

 だから。

 だから。

 僕を置いて行かないでーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

















                                    END