は迷っていた。
彼女の目の前には憎らしいくらいの笑みを浮かべている沖田の笑顔。
責任をとるか、誘惑をとるか・・・それが問題である。
顔を赤くしたり、青くしたりするに沖田は待ちくたびれたようにいった。
「ねぇ、はやく」
「ど、どうしてもですか」
「うん。当たり前でしょ」
「でも・・・・」
頭を抱えるの耳に沖田の催促の言葉は本当に届いているのだろうか。
沖田にしては長い時間で待つがは硬直したままだ。
ついに沖田はことをおこした。
の腕を引っ張り、己のほうに倒れこんでくる身体を器用に受け止める。
そして、頭を自身の胡坐をかいた足の上にのせた。
俗にいう”膝枕”である。
「ちょっと、もう、総司さん!」
「家事なんてやめて、はおとなしく僕に膝枕されてればいいの」
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時は沖田とが鬼の里に住み始めたころのこと。
ーー始まったばかりの二人の暮らしは穏やかに優しく。
その中で小さな騒動が起こることもしばしばだったけれど。
今日も例にもれずそれは始まる。
まだ、全ての部屋の掃除が終わっていないと連日家事にいそしんでいたが洗濯物に手を出し始めたとき
沖田が彼女を半ば強引に呼びとめ、膝枕したいと言い出したのだ。
まだやらなければならないことがあるから、と流すとあの手この手を用いてを引き込もうとする
沖田との攻防の結果。
沖田に軍配があがったようであったーーーーーーーーーーーーー
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彼に甘えるのはむしろ、好きなのだとは思う。
でも、妙にくすぐったくこそばゆいのも事実なのだ。
よく、自分は沖田に膝枕をするけれどしてもらう側になるのはどこか、どきどきとしてしまう。
且つ、自分から膝にのるのも些か、恥ずかしい気がするし。
沖田が意地悪く自分に顔を近づけてくるのも・・・・・
などという、の複雑な乙女心を知ってかしらずか。
自分の思うとおりとなった沖田は上機嫌で彼女の髪に指を絡ませ始める。
「総司さー・・・ん、恨みますよ・・・・」
「あれ、そんなこと言っちゃっていいのかな? 本当はこうされて嬉しいくせに」
「・・・・・っっ!!!それっは」
「あれ、図星?」
意地悪く自分をからかってくる沖田に意趣返しをしたくて、はふんっとそっぽを向いてみた。
上でかすかに忍び笑う声が聞こえる。
そして、そっと頬に沖田の長く、骨ばった指が添えられた。
「ほら、、ごめんってば。こっち向いて?」
「・・・・・・」
「向いてくれないの?・・・じゃ、仕方ないな」
そういって、沖田が上半身だけ屈みこむ。
ちゅ、という小さな水音ともに落とされたふれるだけの口付け。
そして、の耳に「大好きだよ」と密やかな囁きが吹き込まれた。
がばっと目を見開くと悪戯っぽく笑う沖田と目が合った。
途端、熟れた林檎のように顔を赤く染めると自分の額同士をこつん、と合わせる。
「ねぇ、・・・・大好きだよ。愛してる・・・・・・。」
もう一度、かみ締めるようにゆっくりと。
詠うように言葉を紡いだ沖田の瞳はこれ以上の幸せはないというほどの幸せにみちた光を湛えていた。
「不意打ちは反則です・・・」
そういいながらもははにかむ。
「じゃあ、何なら反則じゃないの? あれ、言葉だけじゃ物足りない? それなら・・・どうされたいのかな」
甘い熱を孕んだ風が二人の生活の一こまに流れていった。
落花流水
(言葉にしても足らないほどの情をもつふたりはきっとひとつになって、歩んでいく)
「君はもっと僕に甘えて」
沖田は膝の上で無防備に眠るへ、ぽつりと呟いた。
ここ数日のくるくると忙しそうに動くを思い出す。
それはそれでそそるものがあるがいっしょに穏やかにすごしていたほうがずっといい。
「僕は、こんなにもが愛しくて仕方ないんだからーーーーーーーーー」
END.