減らぬ杯。追想に染まる紫苑。



紫苑。
秋に紫色の小花を咲かすそれがもつ花言葉は「彼方を忘れない」「追想」。

秋の夜風に揺れるその健気な花をみながら、風間千景はゆっくりと杯をかたむけた。
彼の後ろには最愛の妻であるが静かに酌をしている。
ただ、ゆっくりと酒を仰ぐ風間との間に言葉はない。
しかし、ふたりの間には確かなものが横たわっている。

また、憂いを帯びた夏の名残を孕む風が吹く。
黒い髪と金色の髪をさわさわと揺らす。

風間の前にはもう一人分の手付かずの杯がひとつ。
そこの水面にはおぼろげに紫苑の花がうつりこんでいた。
・・・まるであの男の瞳のような。
     どこまでも、愚直でまっすぐな紫色が。


風間がの名を紡ぐ。
彼はひとこと、ひとことゆっくりとかみ締めるように声を発した。
「・・今宵は何故かあやつらのことを思い出す」
そう。
あの時代を駆け抜けた浅葱を纏いし者たちを。
最後まで、背負い続けた1人の男のことを。


     +   +   +

人は脆弱。
儚く。すぐに消えてしまいそうなもの。
それはどう、足掻こうとも変わらないこと。
人の条理。
自分の身の程も知らずにまがまがしい力に手を伸ばそうとするのは。
最終的には破滅に導くことに何故気づかない。
やがて、この世からさらばする。
何をもっても変わらないことを。

貴様一人、人一人、消えたとしても。
何も変わらずにこの世界は廻ってゆくのに。

かならず、時代には革命者が現われ、
そして、時代は変わる。

誰かが倒れれば、代わりのものが現われる。

そうだというのに。
何ゆえ、貴様らは渇望した。







だが。
貴様が抱いた、最後まで抱き続けた理想は。・・・信念と呼ぶのにふさわしいものは。
きっと、誰も代わることの無い。
唯一のものだったのだろう。

貴様らは確かに存在した。
証を刻んで。
唯一無二の。


そう、確かに駆け抜けた。



「そう、だろう・・・?」
ゆっくりと風間がを振り向くとの目じりからは今まさに涙が零れようとしていた。
それを指で優しく掬い取り、無言で抱き寄せる。

貴様たちは幸せだ。
何ものにも代えがたいものをみつけることが出来た。

そして、ここにいる。この世にいるだろう。

貴様を想うものが。
忘れぬものが。
遺志を継ぐものが。

貴様のために泣くものが。
祈るものが。

確かにここにもいるのだ。
・・・それを、幸福とよぶことができるだろう?



見えているのか。知っているのか。
この、むけられし涙と祈りを。

(俺も心に留めてやろう。・・・薄桜鬼)





そして、また夜は明け、朝が来る。
寄り添い目を閉じる二人以外は何も変わらないとおもわれた景色の中で。
手付かずの杯が空になっていた。

                     

                         END,










2010/06/01 up.... 後綴り

ちーさまの恋愛色がほとんど無い話。

ずっと、このような話をかきたいと思っていました。
なので、サイト名である紫苑を題名に掲げました。

何度も書き直して、力不足を実感した作品ではありますが。
すこしでも、伝えられるものがあればよかった。

千景の処女作はこれってきめてたんだ・・・!!!

新選組ではない千景さまだからこそできる追想だと思います。
そして、新選組を見続けていた千景さまだからこそ。

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