寧静の日を夢見た後に
「・・・そうしたら、奥さんが毎日旦那さんをお味噌汁を作るんです」
頬を赤らめながら、楽しそうにはなす。
その姿に彼女が可愛い女なのだと実感させられる。
その話を黙って聞きながら、原田はの淹れた茶をすすった。
時は新選組の台所に菓子がたかく積まれているころ。
原田とは菓子を片付けるという名目でよく、井戸端会議をお茶とともにしていた。
いつも、他愛のない話を喋り、笑う。
原田はこの、数少ない穏やかなひとときがなかなか気に入っていた。
今日の話題はの憧れの家庭。
ころころ、と表情を変えながら話すの横で原田はぽつりと呟いた。
「幸せな家庭、か」
「え、どうされたんですか。原田さん」
原田の声が聞き取れなかったらしいは小首をかしげる。
「・・・なんでもねぇよ。そういう家は・・いいもんだな」
しみじみと原田にそう言われ、は嬉しそうにはにかむ。
「はいっ」
そういって笑うに対し、原田もふっと微笑んだ。
だから、は知らなかったのだ。
一瞬だけ、原田の瞳が伏せられていたことを。
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いつの日か、交わされた会話。
そんな夢物語を自分が掴むなんて思ってもみなかった。
なにより。
彼女とともに叶えられたことが。
なによりもーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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「左之助さん?」
声をかけられ、原田は顔を上げた。
その途端、映るのは自分を心配そうに覗き込むの顔だ。
「どうかしたか?」
「もう、どうかしたか、じゃないです。はやくしないとご飯、冷めちゃいますよ?」
自分の前にはご飯と味噌汁が美味しそうな香りを漂わせている。
それに思わず、口角がにやにやと下がってしまうのを自覚した。
「いや、昔お前と話していたことを思い出してたんだよ」
「そう、なんですか」
「あぁ。憧れの家庭についてで話していたことをな」
そう、原田が言うとは絵心がいったらしい顔をする。
が、すぐに気まずそうにわずかに視線をそらした。
「あのとき、私ずいぶん下手な話を左之助さんにきかせちゃったなって恥ずかしくなったんですから」
そのあと、部屋に戻り、はずいぶん落ち着かない時間をすごした。
顔がほてったり、冷たくなったりで大変だったのだ。
「そのときのお前の顔見たかったんだけどな?勿体無い」
意地悪く、言ってやるとその途端顔を赤らめる。
「さ、左之助さん!!!」
「でも、その通りになりましたけどね」
と、は顔をぺたぺたと手を当て、冷やしながら言う。
そう、確かに二人は自分たちの家庭をつくっているのだ。
「」
腕を伸ばし、呼びかける。
己の腕にしっかりと収まる華奢な肢体。
原田はをそっと抱きしめた。
「これからも、つくってこうぜ。俺たちだけの幸せな家を」
愛しむように囁く。
これからも、のそばに在るのは自分でありたい。
その、思いを受け止めたかのようには原田の腕のなかで頷いた。
寧静の日を夢見た後に
この腕にかかえることのできるなによりも大切なものを。
離さずに強く強く抱きしめよう。
きっと、夢見た寧日は実現するのだから。
END.